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福岡家庭裁判所飯塚支部 昭和52年(少)132号 決定 1977年3月10日

少年 D・Y子(昭三六・六・一六生)

主文

少年に対して強制的措置をとることを許可しない。

理由

(本申請の要旨)

少年は、小学四年生のとき自転車事故による側頭部打撲症の後遺症によるてんかん発作を起こし、中学一年生の秋から昭和五一年一月末(中学二年生)までの間、三つの病院(精神科)への入退院を繰り返したがその間、家出、無断退院、不純異性交遊がつづき、家庭に適応できず学校にもほとんど出席しなかつた。その後も家出したため同年五月福岡県○○児童相談所に一時保護されたが翌日抗てんかん剤を多量に服用し入院騒ぎを起こして退所し、「父に犯されたから家にいたくない」と言つて家出をし七月一日付で教護院措置となるも発作を頻発し無断退所して八月七日付で措置解除となつた。その後も家庭に適応できず家出を繰り返し、昭和五二年一月八日行方不明となつて、二月七日大阪市でキャバレーホステス(約二週間)をしているさい保護された。

以上、家庭への不適応、病院、児童相談所からの無断退所、家出、児童としては不適当な職業への従事等の事実によれば少年に対して児童福祉法二七条の二による強制的措置をとることが必要である。

(当裁判所の判断)

審判、調査の結果、福岡県○○児童相談所提出の少年に対するケース記録によれば、本申請の要旨に摘示した事実のほか、つぎの事実が認められる。

<1>  少年の病名は外傷性てんかんで意識消失、けいれん発作があるが昭和五〇年ころには薬剤治療により発作がかなり消失している。抗てんかん剤、精神安定剤の服用を現在も続けている。なお、性格変化が著名で自己中心的、粘着性気質が認められる。

<2>  少年は情緒的に未熟で自己中心的傾向があり、性格的にはヒステリー性格でその偏りが大きいため適応力が極めて乏しい。我儘・勝気で虚栄心、内容の伴わない優越感をもち周囲の人から「ちやほやされたい」とか「よく思われたい」といつた気持が強く、多弁で誇張が多い。感情の起伏が激しく自分の思い通りにならないと我慢できず怒つたりわめいたりし、ついには家出、無断退院、自傷行為(狂言自殺等)に及んでしまう。また同情を得るために「父親から犯された、家に帰りたくない」などと平気で嘘を言い、実兄、叔父、従兄などに関しても同様の嘘を言う。

<3>  少年は児童相談所、教護院、家庭のどこにいても当初はおとなしくしているがすぐに我儘、自己中心的な言動に終始し自ら不適応状態を作り出しており、教護院、○○学園においては施設における指導は無理であるとして措置を解除されている。

<4>  家族は父、母、兄二人、姉三人であるが、少年はすぐ上の姉と四歳離れた末つ子として甘やかされて育てられ、発作が起きるようになつてからははれものにさわるような感じで扱われてきたうえ、上記のような性格、行動のため少年一人のみ孤立し、家族は少年にどう対処すればよいのかなすすべを知らない状態であるが、少年を引取つて医療的措置をとりたいとの意向を有しており、その資力は十分である。少年を除く家族間には何の問題もない。

<5>  少年は家出中に知合つた男と同棲したり、病院から男の患者と一緒に逃走しているが、それほど好きでなくても親切にしてくれたということで関係を結んでおり、性行為に対する抵抗感が乏しい。

以上の事実によれば、少年には虞犯事由が存するものと認められるけれども、少年の上記問題点の主たる原因は外傷性てんかんとそれによる性格変化であつて少年に対して福祉的措置の枠内で教護の目的を達することは甚だ困難であり、むしろ従前のような対症療法にとどまらず根本的な医学的治療が必要であり、保護者の少年に対する監護意欲、能力も十分に存するので本申請は理由がないものと思料する。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 大串修)

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